2017.02.26

【インタビュー】セレクトのテーマは「新鮮さ」。下北沢のレコード屋さん「オトノマド」高橋祐治さんインタビュー:オーナー編 vol.13

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昔ながらの建物が残る一番街商店街に佇む「オトノマド」は、大きなガラス窓が印象的なレコード屋さん。オーナーである高橋祐治さんが「新鮮」だと感じた音楽を、ジャンルに囚われずノマド的な多様性でセレクトしています。それぞれの商品には高橋さんお手製のポップが付けられているのもポイント!ひとつひとつ音楽に向き合い、丁寧に紡がれた言葉からは愛情が伝わってきます。

窓に面して配置された試聴コーナーではビールをいただくこともでき、街をゆく人々を眺めながら、ゆったりとした時間の中、ジャンルや時代を越えた音楽との一期一会が楽しめますよ。

今回はお店と同じように柔らかな雰囲気を持つ高橋さんをインタビューさせていただきました。











──元々中古レコード屋さんで10年以上働かれていたとか。どうして自分のお店を持とうと?

30才を過ぎてこの先どう生きていくか考えたときに、ひとつの選択肢として思い浮かんだのがレコード屋さんでした。今まで貯蓄してきた経験や知識があるので、表現方法として一番手っ取り早いと思ったんです。いろんな生き方があるんでしょうけど、僕の場合は音楽にどんどんハマっていって、気づいたら「もうこれしかできないな」というところまで来ていました(笑)音楽に人生を狂わされましたが、好きなことに囲まれて働けるのはとても幸せなことだと思います。


──人の生き方を変えてしまう音楽の力ってすごい・・・!下北沢には昔から来ていたんですか?

若い頃に音楽をやっていて、バンドの練習でよく来ていました。当時は自分が下北沢にお店を出すなんて全く考えていませんでしたね。一番街商店街に決めたのは、南口に比べるとのどかで古い建物が残っている街並みにしっくりきたというのと、この物件が気に入ったというのがあります。出会った瞬間、内装のイメージが一気にひらめきました。この場所が見つかっていなかったら、きっとお店を出してはいなかったでしょうね。



──路上に面しているから街を行く人の流れも見えるし、窓から入る光も心地良いし、とてもいい場所だと感じます!お店を出した2008年頃は、レコード業界に活気があったんですか?

その頃は通販を使ったビジネスが主流になってきていて、街からレコード屋さんがどんどん消えていっていたんですよ。僕自身はレコード屋さんに行くことが大好きなので、寂しさを肌で感じていました。きっと時代と噛み合わなくなってきたんでしょうね。だけど、音楽が好きな人は変わらずたくさんいるし、レコードが好きな人もいるだろうという自信もあって。本当に時代の流れに合っていないのか自分で試してみようと思いました。



──試してみて、結論は出ました?

お店を出してみて「そりゃなくなるよな」と感じました(笑)ただ、僕のやってる商売は大多数に向けて大量に物を売るスタイルではなく、狭い範囲に向けて小さくやっているので、やめられないですね。「レコードが好き」というのが前提にありますし。

最近は店頭、通販、ダウンロードと、消費する人たちがバランスよく選択できるようになってきていて、そういう意味では当時よりも音楽業界に活気が出てきていると思います。レコードを見たことも聴いたこともない若いお客さんが、興味を持って入ってきてくれたり、「レコードの音を聴かせてくれないか」と言ってくれることもあります。そういったことはお店をやっていて嬉しいし、明るい話題だと思います。




▲仕入れたばかりのレコードは汚れが付着しているので、1枚1枚拭いてお手入れをします。「汚れを放っておくと、どんどん痛んでしまいます。それで捨てられてしまうと、世の中から消えてしまう。それは嫌なんです。」と高橋さん。









──若い方もレコードに興味を持っているんですね。レコードとCDの差はどんなところにあるのでしょうか。

僕が一番感じるのは「質感」です。アナログのレコードは針で溝から音を拾ってきますが、デジタルのCDは信号を読み取ります。そこが根本的に違うところで、同じ曲を聴いても肌触りが違うんですよね。どちらが良い悪いというよりは、好みの問題だと思います。

レコードは傷ついたり、すり減っていったりして、だんだんと劣化していきます。気を使って扱わなければならないので、CDに比べると少し手間が掛かりますが、だからこそかわいいし愛着が出てくるものだと思っています。

CDの音は基本的には劣化しないと言われています。ある意味素晴らしいのかもしれませんが、僕自身はそこに違和感を感じていて。情報として便利かもしれないけど、生まれたままずっと変わらないのは、なんとなく気持ちが悪い。例えば花は咲いて散るからこそ美しさがありますよね。人間だって老いて死ぬから、愛おしく思います。生き物や植物を大事にするのと同じで、音楽も限りがある方が大事にしたくなると思います。



寄り道があるほど面白い、自分だけのレコード



──胸に染みるいい話・・・!最近はいろいろなことが極端にデジタル化されているように思えます。

皆、皮膚感覚として感じているんですよね。それに対する反動としてレコードが今、少し見直されているのかな。アナログだと音楽に付加する物語がたくさん付くと思うんです。例えば「レコード屋のおっさんに勧められて買ったな」とか、「土砂降りでビッショリになって帰ったな」とか。そういう物語が1枚の中に凝縮されて、その人だけのレコードになるんです。物語は強く心に残り、音楽を聴いた時に情景や記憶が戻ってきたりすると思います。

デジタルだと手に入れるまでの道のりに何もないので、感情移入がしにくいというか、少し冷たい世界。ダウンロードをしたはいいけど、何を買ったのか忘れてしまったり、聴いてなかったりしますし、思い出の店が通販店というのは少し寂しいですよね。



──便利さを追い求めた結果、人々は大切な何かを忘れてしまっているのかもしれませんね。お店にあるものはジャンルとジャンルの隙間にある音楽をピックアップされているとか。

僕はニッチな音楽ほど面白くてワクワクするものが多いと思っています。ジャンルの隙間にある音楽は見落とされやすく、あまり取り上げられずに漏れてしまう。そういった発見しにくいものを丁寧にピックアップしてあげたいと思っています。

専門店ではないので、何かひとつのジャンルを追求するというスタンスではやっていません。昔どの街にもひとつはあったような、「小さな街のレコード屋さん」を自分なりの解釈でやりたいので、ロックから、ジャズ、民族音楽など色々と扱っています。「こだわらないのがこだわり」ですね。固執してしまうと広がらないと思います。



──高橋さんの興味あるものが集まっているイメージでしょうか。

古い音楽を多く扱っていますがノスタルジーではなく、今聴いて自分にとって新鮮であるかどうかを基準にしています。音楽には当時の社会情勢や政治的なことなども含まれているので、聴こえ方は時代と共に変わっていきます。そこも面白いんですよ。

例えばビートルズが来日したとき、「あんなうるさい音楽はノイズだ」とおじさんたちが怒っている、そんな時代があるわけですよね。もっと言えばフランスの近代音楽は、当時は不協和音とされていたけど、今では癒しだと言われている。聞き手の耳は一生変化し続けるものだと思うし、音楽自身も変わっていくんです。生き物なんですよね。だから飽きないというか、僕は永遠に終わらない作業をしているというのがあります(笑)







──普通の人以上にたくさんの音楽に触れてきていると思いますが、原点とも言える初めて買ったレコードは何だったんですか?

自分のお小遣いで初めて買いに行ったのは、7インチという小さなシングル盤で、「Wham!」というイギリスのグループの「Careless Whisper」という曲でした。本当は別の曲が欲しかったんですが、間違ってそれを買ってきてしまったんです。僕が欲しかったのはもっとハッピーな曲だったんですが、「Careless Whisper」は大人っぽいバラードで。ワクワクして聴いたら、すごくガッカリした思い出があります(笑)先ほどの話にもありますが、「全然違う曲買っちゃったよ」という思い出がずっと残っているんですよね。



──かわいい思い出ですね!今は試聴が当たり前にできるし、間違うことは少ないかも。

昔はその場で聴けることはほとんどありませんでした。そもそも情報の出所がとても少なく、皆飢えていたと思います。「どんな曲かわからないけど買っちゃおう」という買い方もしていました。その分、1枚に対する思い入れがあります。失敗したらショックも大きいけど、それもまた糧になるんですよね。

失敗というのは、音楽が良くなかったわけではなく「その時の自分と合わなかった」だけなんだと思います。その音楽自身は誰かが良いと思ってリリースしているわけですから、自分の好みではないとか、気分じゃないとか、そういうことだと思います。そういうものは時間とともに変わっていくし、「なんだろうこれ、変なの」と感じることは、自分の可能性を広げるためにとても大事なことだと思います。

今は物も情報もあるのに聴き方が狭まっていて、不自由さを感じるので、いろんな音楽を聴いたら面白いよというのをお店を通して提案しています。






▲窓越しにあたたかい陽の光を浴びながら、ゆったりと試聴ができます。テーブルは高橋さんの祖父のお家にあったもの。


──最後に「音楽」とは何か、高橋さんの考えを教えてください。

僕が思うのは「潤滑剤」です。長年生きてくると、いろんな所にガタが出てくるわけじゃないですか。そういうところに潤滑剤を塗ってやると、また元気よく動き出す。そんな感じかなと思いますね。元気づけるだけではなく、叱咤激励もしてくれるだろうし、刺激になったりして。それで潤うと、より楽しい生活が送れると思います。

僕たちは当たり前のように享受していますが、世界中の音楽をこれだけ気楽に聴けて楽しめるのは、とても幸せで平和なことだと思います。だから大事にしないといけないよ、ということを次の世代に伝えていけたらと思います。

この年になってやっとそういう役周りになってきたのかな。レコードがない時代は楽譜や、口伝えで次の世代へ引き継がれてきていて、それがもう何千年も脈々と続いていて。そういうものの一部になっていることに意義を感じているのかもしれません。「音楽で人生が狂っちゃう人もいるんだよ」というのを若い子に見せてあげたいですね。



──もしかしたら、オトノマドさんで買ったレコードがきっかけになって、新しい音楽が生まれたり、お店を出す人が出てきたりする可能性もありますよね。

そうですね。今も音楽やっている子が、新しい曲を生み出すきっかけになったと言ってくれることがあって嬉しいです。でも直接の影響にならなくても、「あそこに昔レコード屋があったよね」と記憶の片隅に残ってくれたら、それだけでいいかなと思います。

隣は「NEW YORK JOE」という古着屋さんで、以前は銭湯だったんですよ。お店の名前は「入浴場」のもじりで、店内には浴場のタイルが残されたままになっているんですが、ここを通る方が未だに銭湯の話をされるんです。皆が皆来ていたわけではないけど、街の風景のひとつとして大事にされていたんでしょう。うちもそういう風になれたらいいなと思いますね。マンションの一室ではなく、路面でお店をやりたかったのは、そんな想いから来ています。




春をテーマに3選


最後に高橋さんご自身にテーマを決めていただいて、それに沿ったレコードを3つ選んでいただきました。テーマは「春」。







【古澤良治郎とリー・オスカー - あのころ】
ジャズの日本人のドラムの人と、アメリカのハーモニカの人が一緒にやっている。「今、春?」という曲があります。作品もジャケットのようにほのぼのとした感じです。






【Via Tania and the Tomorrow Music Orchestra】
オーストラリアを拠点とする女性のシンガーソングライターによる2015年の作品。オーケストラをバックに歌っている作品で、春のほんわかしたような雰囲気があります。






【Virginia Astley - Promise Nothing】
イギリスの80年代の女性歌手。田園的なジャケットもそうですが、他の作品では「雪解け」という曲があったりと春を感じさせてくれるアーティスト。

「音楽のジャンルも国も年代も全てバラバラですが、ひとつのテーマとして考えると統一感があると思います。順番を変えて聴くとまた雰囲気が変わってきますよ。」と高橋さん。まだまだ冬の寒さを感じる季節ですが、一足先に音楽で春を感じてくださいね。







インタビューを終えて



ダンスフロアよりもお家でゆっくり聴ける音楽を扱っている「オトノマド」。それを象徴するように店内にも柔らかな空気が流れていました。それはきっと、お店を運営している高橋さんご自身が優しい人だから出せる空気感なんだと思います。是非この場所で、自分だけの物語が詰まった1枚を見つけてみてくださいね。





  • オトノマド otonomad


  • 住所東京都世田谷区北沢3-26-4 1F
  • 最寄り駅京王電鉄・小田急電鉄「下北沢」駅 北口から徒歩3分
  • TEL03-3485-3946
  • 営業時間月~土 13:00~20:00 日、祝 12:00~19:00
  • 定休日木曜定休(祝日の場合は営業)
  • URLhttp://otonomad.com/




ライター

ローカルデータ編集部

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